本だけ読んで暮らせたら -7ページ目

『縮みゆく男』


『縮みゆく男』  リチャード・マシスン/著、 本間有/訳、 扶桑社ミステリー(2013)

1956年の作品。
主人公の男が放射能汚染と殺虫剤の影響で、日に日に身長が縮んで行く奇病に侵される。

仕事にも就けなくなり、世間の好奇な目に晒され、やがて妻とは不和になり・・・、幼い娘よりも小さくなってきてからは、様々な事件に巻き込まれることになる・・・。


フトした出来事から地下の物置小屋に閉じ込められたときは既に自力では脱出できないまでの身長になっていた。なんとか物置小屋でのサバイバルが可能になってきても、身長は徐々に縮む。小さくなるごとに問題が生じる。昆虫サイズになってからは冒険と戦いの日々が続く。

やがて・・・・・。


物語の初めから終わりまで、男は事あるごとに孤独と絶望に苛まれる。問題を解決した後、ほんのわずかな希望を見い出す瞬間も訪れるが、新たな問題の発生とともにまた孤独と絶望が・・・。

そして、物語の結末で男が見い出すもの、それは・・・・・・。



男の身長の縮む原因となったのが放射能ってところが、1956年作の時代性を感じさせるが、それ以外はまったく古さを感じない。

とにかく読ませる。

たたみ掛ける展開と、その展開に応じて変化する縮みゆく男の心理の描写。そのストーリーテリングは素晴らしい。


『荷風随筆集(上)』


『荷風随筆集 (上) 日和下駄』 永井荷風/著、 野口富士男/編、 岩波文庫(1986)


荷風随筆集は上下2巻。この上巻は東京という都市(論)を描いたエッセイの集まり。

明治から昭和30年代までの東京の移り変わりの様が描かれている。


父親が実業家で金持ちだったからだろう。明治の世にあって、若き荷風は自費でアメリカとヨーロッパに行っている。

当時、外国に行くことのできたのは政府関係者や官費留学生など、使命を持って(持たされて)いた人がほとんどであったことだろう。そんな時代にあって、比較的自由気ままに外国の世情や文化を体験した人間は稀であったろうと思う。


西洋の文化・文明に触れ、それを称賛する荷風。

一方、明治文明開化によって江戸期の街並み・様相が大きく変貌してゆく(西洋化する)東京を、そして、その東京を変えようとする人情を嘆く荷風。

西洋の真似をしようとしても、しきれるものではない。風土や歴史などに依存せざるを得ない。そのことを良く判っていた荷風。

それでも、東京下町の裏道や横道に、人々の何気ない所作や言動に、未だ残る江戸文化・風情の残影を愛でる荷風。

社会や文明に対する諦念と、文化や芸術に対する気概。乾いていながら憂う気持ち。何事にも背反する二重性を持つ人格であったように思える。

そして、何故だかは良く判らないが、この作品だけに限らないが、いくつかの小説・随筆を読んでみると、荷風さん自身にハードボイルドっ気を感じる。



そしてそして、なにはともあれ、この文庫を持って東京散歩に行ってみたくなる。荷風さんの時代の東京と今の東京を比べてみたくなる。


読者にいろんな感情を表出させてくれるいい作品だなァ、としみじみ思う。

お薦めです。


『ハヤカワ・ステリマガジンNo.693 ポケミス60周年記念特大号』


ミステリマガジン 2013年 11月号 [雑誌]/早川書房


「ポケミス60周年記念特大号」ってのに釣られてしまった。

ポケミス全作品のタイトルや概要が載ってる。カタログとして使うものだろうな。

まさかの2300円。


読みどころは、同じ1936年生まれの小鷹信光、権田萬治、仁賀克雄の3氏による鼎談。

ミステリ界の大御所たちによるブッチャケ話が実に面白い。


60周年記念で行われたポケミス全作品の特別展示会 も良かったが、3氏によるトーク・サロンのようなものが開催されていたら、料金を払ってでも聞きに行ってたのに・・・。


『夢幻諸島から』


『夢幻諸島から』  クリストファー・プリースト/著、 古沢嘉通/訳、 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ(2013)


ドリーム・アーキペラゴ(=夢幻諸島)と呼ばれる仮想の惑星世界で繰り広げられる人間たちの所業を描いた短編物語の連作集。


各短編全体を通して、

●時間勾配のゆがみが原因で、精緻な地図の作成が困難な世界であること。

●国家は北の大陸に存在し、国家間の争いが絶えないこと。

●だが、物理的な戦争は南の大陸で行われていること。

●北と南の大陸の間の広大な海域にあるのが<夢幻諸島>であること。

●夢幻諸島は非戦闘区域であること。

・・・と、まァ、かような統一的な設定がなされている。


どの短編も何処かしら、何かしら関連している。

先に読んだ物語の謎が、数編後で読んだ物語で判明したり・・・。

その逆に、先に出てきた物語で語られたコトガラが、数十ページ後の物語の帰結であったり・・・。帰結が先に出てきて、原因が後に出てくるっていうね・・・。

つまり、物語の配列の順番とそれぞれの物語中で生じている時制が一致していない。


互いに少しづつ関連した物語が、時制の後先に拘らずに並べられている。それが、作品全体に不思議な雰囲気を与えている。

プリーストらしい幻想的な作品。


物語を深く味わうにはもう一度くらい読まないと・・・。

互いの物語の関連性に気づいていないことも結構ありそうだ・・・。


『流れとかたち』

御無沙汰だったブログ書き。
読み終わったままのが幾つかある(前の記事)。
・・・で、今夜から数日間、1冊ずつアップしていこうと思います。

『流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則』 エイドリアン・ベジャン/著、柴田裕之/訳、 紀伊國屋書店(2013)


少し前に話題になってた?


「すべてはより良く流れる形に進化する。生物、無生物を問わず、すべての形の進化は“コンストラクタル法則”にしたがう。」



紀伊國屋書店から出たポピュラー・サイエンスのベスト・ヒットと云えば、ドーキンスの『利己的な遺伝子』を思い出す。

はたして本書『流れとかたち』が、いまや進化生物学の古典ともなったドーキンス本に匹敵するような作品となるのか?(個人的には無理だと思うけど・・・。)


amazonレビューでもかなり高い評価がされているが・・・。


細かいところに引っ掛かった。

例えば、分岐構造一つをとっても、肺の気管支、木の枝、三角州の流線網、生物進化の系統樹などには違いがある。それらを一緒にして議論してもイイのだろうか?

著者は小さな違いに拘るなと何処かのページで言ってたようにも記憶してるが、小さな違いを無視することが、やがてこの理論に綻びをもたらしはしないかと・・・。

また、ボディ・デザインには大きさも関係するだろうと思われるが、サイズの有利/不利の法則がいま一つ明確にされていないようにも思った。それとも、流れ方の違いによって最適サイズも変わると云うことだっただろうか?


ともあれ、著者の云いたいことの概観は判った(ように思う)。

だが、30年前、ドーキンスを読んだ後のような昂揚感が訪れることはなかった。

読み終わった本


サイエンス 「流れとかたち」

エッセイ  「荷風随筆集(上)」

SF     「夢幻諸島から」

ミステリ  「カルニヴィア 1 禁忌」  ← 10月に記事にしてた・・・。

SF     「縮みゆく男」
ミステリ  「緑衣の女」

雑誌    「ハヤカワ ミステリマガジンNo.693 ポケミス60周年記念特大号」

ミステリ  「イン・ザ・ブラッド」

マンガ   「鞄図書館 2巻」

SF     「地球の長い午後」

エッセイ  「花の大江戸風俗案内」

その他   「危機管理対応マニュアル」

エセイ   「いじわるな天使」

ミステリ  「ジャック・リッチーのあの手この手」

マンガ   「天の地脈 3巻」


どれも面白かった。

早く記事にしないと忘れてしまう・・・・・。


ハヤカワ・ミステリ全点特別展示会

ポケミス創刊60周年記念ということで、神田の早川書房本社ビルで開催されている「全点特別展示会」に行ってきた。


全作品揃えたくなった。無理だけど・・・。

せめて、チャンドラー作品だけでも手に入れたい。。。文庫ではなく、ポケミス版で・・・・・。

 


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『カルニヴィア 1 禁忌』


『カルニヴィア 1 禁忌』  ジョナサン・ホルト/著、 奥村章子/訳、 ハヤカワ・ミステリ(2013)


イタリア・ヴェネツィアを舞台にした物語。


カトリックでは許されていない女性の司祭。だが、運河の石段で発見された女性は司祭服を着ていた。

この女性と同宿だった別の女性もまた、ホテルに面した運河の底で死体となって発見された。


二人の女性の殺人事件を追うのは、イタリア憲兵隊刑事部大尉のカテリーナ・ターポ。

そして、イタリア駐留米軍の基地に赴任してきたばかりのホリー・ボランド少尉は、旧ユーゴスラビア内戦に関わる情報を追ううちに、カテリーナの捜査に巻き込まれることになる。

一方、政府からの情報開示請求を拒否したために有罪判決を受けている、ソーシャルネットワーク“カルニヴィア”の創設者=ダニエーレ・バルボは、自身への社会的圧力の原因が“カルニヴィア”内にあることを予見する。“カルニヴィア”を探索するダニエーレもまた、殺人事件に関わってゆくことになる。


現在のヴェネツィアでの2件の女性殺人事件、旧ユーゴスラビア内戦で起こった民族浄化と云う名の大量虐殺、これらがソーシャルネットワークを介して関連付けられてゆく・・・・・。

それぞれの思惑を持ちながら、カテリーナ、ホリー、ダニエーレの3人が協力したとき、殺人事件とその背景にある陰謀の謎が明らかになって行く・・・!?


物語の進行につれて徐々にサスペンス度が高まり、クライマックスではなかなかのアクションが展開される。上質なエンターテイメント。



イタリアには警察機構が複数あること、カトリック(宗教)の閉鎖性、ヴェネツィアの水没危機、旧ユーゴ内戦に関与したといわれるCIA、人道的参戦と称して空爆を行ったNATO軍、イタリアで現在も進められている米軍基地拡張・・・・・。

ヴェネツィアからアドリア海を挟んだ東側が旧ユーゴスラビアであり、内戦時には難民や密入国者たちがイタリアに向かった・・・・・。戦時下の女性、イタリア入国のために搾取される女性たち・・・・。

この物語には、上述したような歴史的・社会的背景がある。私の知らないことばかりが出てくる。

エンターテイメント作品を通して、かような背景があるってことを知るのもイイ。



本書はハヤカワ・ミステリ60周年を記念して出版された作品で、3部作らしい。 続編も読も。



『帰ってきちゃった発作的座談会』


『帰ってきちゃった発作的座談会』  (角川文庫)



椎名誠、沢野ひとし、木村晋介、目黒孝二のオッサン4人によるクッダラネー話、戯れ言、空論の羅列。


おばさんが集まった際の四方山話もくだらねェーが、オッサンが集まった際の話はそれ以上にクダラねェーってことを示してるのが本書。


いい年して何を訳の判らんこと言ってんだと思い、弁護士だ作家だといっても、所詮男は幾つになっても中二病だと実感する。読者(私)自身も含め、大抵の男は所詮こんなもんだ、と安心できるようになってる。


暇つぶしにはもってこい。

『壬申の乱』

3週間も前に読んでた本。

『壬申の乱―天皇誕生の神話と史実』  遠山美都男/著、 中公新書(1996)



古事記、日本書紀の編纂を命じたといわれる天武天皇。

天武王朝時代からが「天皇」称の始まりと云われる?

日本国の成立?は天武以降と云われる??

そんな天武王朝を誕生させる決定的な出来事・・・・・それが壬申の乱。

古代最大の内戦。その勝者だからこそ、強力な中央集権的な国家の建立を可能とした!?


以前読んだ荒山徹の『柳生大作戦』 のネタ元になっていたのが、関ヶ原の戦いと壬申の乱だった。

その際、壬申の乱に関してあまりにも知らな過ぎて、小説の理解に苦しんだ。・・・で、いつか、壬申の乱について、何かを読んでおこうと思ってた。

その何かが本書。ブックオフでよく見掛けるので、壬申の乱関連の定番なのかなと思い、手に取った。


1000年の時差を超えて照応する二つの大内乱。

本書にも、この二つの合戦を比較して言及している箇所があった。