本だけ読んで暮らせたら -6ページ目

『ジャック・リッチーのあの手この手』


『ジャック・リッチーのあの手この手』  ジャック・リッチー/著、 ハヤカワ・ポケット・ミステリ(2013)


小鷹信光さん編集・訳の日本オリジナル短編集。小鷹氏厳選の23篇。

ジャック・リッチーは短編しか書いてないから短編集以外はない・・・らしい。


読み終えてから結構な日が経ってしまった。

今、目次を見返しているが、23篇中の一つか二つくらいの作品の印象・記憶しか甦ってこない・・・・。

読んでいる最中は、面白いと思って読んでいたはずなのだが・・・・・。

読み終わってすぐに記事にしないから、こういうことになる。

以前に比べると、ブログ記事を書こうとする意欲が薄れてきているからか、読了から記事記載までの間隔が確実に大きくなってきている。

このブログを読書記録として使っている意味が無くなってきてしまう・・・・・。


『いじわるな天使』


『いじわるな天使』  穂村弘/著、 アスペクト文庫(2013)

私にとって“今年の新発見作家”となったホムラの童話集。

題目通り、シニカル、リリカル、マジカルな内容の話が15編。平均すると1篇が10ページ以下。



読み終わって1か月以上経つ今でも記憶に残っているのは、「僕の夏休み」という作品。


小学生の“僕”が夏休みの自由研究に選んだのは、「恋愛」。

僕は、担任の小林先生のネット上でのハンドルネームを探り当て、他人になりすまし、ネット上での先生との「恋」が始まった・・・・。
液晶ディスプレイの世界で二人の会話は弾んだ。

やがて、先生と会う約束をした“僕”は岬の灯台に行った・・・・・。


・・・・・結末がなかなかイイ。


『日本古代史を科学する』


『日本古代史を科学する』   中田力/著、 PHP新書(2013)


邪馬台国は何処か? 畿内説、北九州説、その他もろもろ・・・・・邪馬台国論争。

現代に至っても未だに結論付けられない日本史上の最大の謎。


「魏志倭人伝」に書かれている邪馬台国へ至るまでに出てくる地名や距離・日数などについて、誤記や作為はなかったとし、古代の距離単位を帰納的に推定し、そして地形の素直な解釈を行う・・・、このような行為をもってすれば邪馬台国は必然的に宮崎に同定される。 ←筆者の結論である。


↑ このような結論に至るまでの説明は概ね納得できるものだった。



九州宮崎の邪馬台国。金印が発見されてその存在がほぼ確実視される福岡近辺にあったとされる奴国。これら九州地方に勢力を持った集団。それらを構成した人々の先達は、大陸の先進文化(その中には稲作も含まれる)を携えて来たのだった。

著者は、現代日本人のY染色体タイプが、古代に大陸南東沿岸域にいた人々のY染色体タイプと類似していること、さらには、日本で作られている稲の遺伝子タイプが彼の地のものと類似していること、などを示す。


↑ 大陸の古代国家である呉や越の滅亡年代と、滅亡した国の人々が逃げ延びる場所を考えた場合、それが九州地方であったことは、これまた納得できる話ではある。



そして、邪馬台国は東遷し、その後、ヤマトへと至る。そして、その過程で出雲との融合があった・・・。

記紀にある国譲り神話や、大国主命や素戔嗚尊(スサノオノミコト)の伝説、などの素となったのが、邪馬台国東遷における出雲との融合を示すものだと著者は云う。

邪馬台国のもとになったのが大陸からの亡命してきた人々の子孫だったように、出雲もまた大陸からの亡命人達の子孫が関わっていた・・・・・としたら、同じ考え方を有する人たちの間で、国譲りは争うことなく行われたのではないか?


↑この部分の説明には科学的エビデンスがない。だが、当たらずとも遠からず、といった感じがする。



読後、勤務先の古代史好きの先輩にも本書を貸したところ、彼もまた、ソコソコ納得できそうな説であると同意してくれた。



殷・周といった大陸の古代王朝、徐福伝説、呉越同舟、・・・・・、これらが日本古代史に多少なりとも関連するというのはもっともなことだと思った。


『荷風随筆集(下)』


『荷風随筆集(下)』  永井荷風/著、 野口富士男/編、 岩波文庫(1986)


上巻 とは一転。風俗話満載の下巻。


女遊びにも粋を求める。女好きだが女に執着しない荷風さん。

明治・大正期だったからこそ、そうした態度、考えを公に表すことも許されたのかもしれない。

本書中のそれぞれのエッセイには、荷風の女性に対する一見冷めた調子の態度・考えが伺えるが、物悲しさも一緒に流れているように思える。


社会不適格者的な個性をもつ荷風さんがなんとなくいじらしい。

『蜩ノ記』


『蜩ノ記』  葉室麟/著、 祥伝社文庫(2013)


ハードボイルド。

これぞハムロ!と云うべき作品。

『イン・ザ・ブラッド』


『イン・ザ・ブラッド』  ジャック・カーリー/著、三角和代/訳、文春文庫(2013)


刑事カーソン・ライダー・シリーズの第5作。


帯には「ディーヴァーを継ぐドンデン返しミステリの俊英」とある。

このテの惹句は、言い過ぎっ! ってことが大抵だが、ことJ・カーリイに関してはそうでもない。

前作 を読んだ後、続編を楽しみにしていた。



ビーチに流されてきたボートには一人の赤ん坊がいた。カーソンと相棒のハリーが救いだし、病院に収容したその子は奇跡的に健康を回復しつつある。2人が安心を得たのもつかの間、なぜか病院には赤ん坊を狙った襲撃が続く。

また、流されたボートの出処とみられる地点には、複数の人間が争った跡、消失した家屋、腹に銛の刺さった死体が発見される。その後、極右宗教団体の説教師の変死事件などが絡みだす。

複数の事件の関連性とその背後にある謎をカーソンとハリーが追う・・・・・。


カーソンとハリー、二人の刑事の関係性の深化、コンビの絆の強化がみられた今作であった。

だが残念なことに本作には、このシリーズでの重要人物であるジェレミーが登場しない・・・。

これまでのパターンから云って、事件の本筋にジェレミーが絡んだとき、物語の面白度は倍加するんだが・・・。


まァ、それでもラストまでの伏線の張り方とどんでん返し、それらの巧みさは相変わらず凄い。

次作も楽しみ。

きっと、次作にはジェレミーが登場してくれるだろう(?)


『花の大江戸風俗案内』


『イラストで見る花の大江戸風俗案内』  菊地ひと美/著、 新潮文庫(2013)


江戸時代を舞台とした小説を読む際に、土地や建物や人々の衣装や風体がイメージできるのとできないのとじゃ、物語への入り込み方がかなり違ってくるだろう・・・。

ときおり時代小説を読む身としては・・・・・ってことで読んでみた。


遊郭での遊び方だったり、どのくらいのお金が掛かったのか、などが書かれた第一部の「花の吉原案内」はおもしろい。

遊女にもイロイロ、遊客にもイロイロだということが良く判る。


第二部「武士と町人の暮らしと服装」、第三部「髪型」が本書の核かなと思った・・・・が・・・・、


同じ娘でも武家と町人とじゃ髪型や着物も違う。武士と町人と商人、与力と同心、大名と旗本、丁稚と番頭、遊女の格、などなどの身分によって着物や腰にぶら下げるモノ、身に付けるモノも違ってくる。同じ人物でも在宅のときと外出のときでは異なる。・・・身分を示すアイコン。


身分によって何から何まで違う。僅かな身分差でも細かなチョットした違いをつける。

そんなことが文章とイラストで、これでもか!と示されてる。


しかし、この第二部と第三部は細かすぎる。細かすぎてどうでもよくなってきた。。。

私の場合、だいたいのことが判ればいいんだよな。。。

『地球の長い午後』


『地球の長い午後』  ブライアン・W・オールディス/著、伊藤典夫/訳、ハヤカワ文庫


書店で平積みになっていたのを見て気になった。で、手に取って裏表紙などを読んでいると、どうやらSFの古典らしいことがわかった。今年になって出てるのは、文庫復刻版らしい。

でも、その時は購入しなかった・・・。


後日、フトした思いつきから、以前購入して机の下に積んであるハヤカワ・SF・シリーズ の幾つかを引っ張り出してみた。その中に本作があった!

で、読んでみた。

私が読んだのは、ハヤカワ・SF・シリーズNo.3139:昭和46年(1971年)発行の第3版。


遠い未来。太陽が膨張して地球は超温暖化・・・、しかも自転が止まって半球が常に太陽に曝されている・・・、という状態。

昼側の地球では、強烈な放射線の下で動物はほとんど死滅し、植物が繁栄している。

大陸は、生存競争に勝ち残ったたった1本の巨大樹に支配され、その巨大樹の周辺や樹上でその他のより小さな植物が様々な形態を採って広大なジャングルを形成している。

ほんの僅か、生き残った動物のなかには人類も含まれた・・・。


ボディ・サイズは小さくなり、全身が緑色に変化した人類。

そんな人類の1人として、わずか数人の部落に生まれたグレン。生来の知性と好奇心と反骨心を持つ

グレンは部落から追い出され、冒険の旅に出ることに・・・。

物語の壮大さ。未来の地球を描写する独創的なアイデア、イメージ。生命やヒト、そして知性、知能と云うものに対する洞察の鋭さ。

本作の著者=ブライアン・W・オールディス、1950・60年代に活躍したイギリスのSF作家ということだが、物凄いイマジネーションを持った人だったんだ。

お薦めです。


『鞄図書館 2巻』


『鞄図書館(2)』 芳崎せいむ/著、 東京創元社(2013)

4年ぶりの新刊。 前巻の記事はコチラ


古今東西の本、いや、未来に出版されるであろう本まで、あらゆる本を収納する鞄。その鞄はゲーテの格言を好んでしゃべる。。。

時空を超えて旅をするおしゃべりな鞄と寡黙な司書さんが訪れた先での、本好きの、あるいは本嫌いの人々との間の物語が8篇。

ちょっと切なく、でもなんとなくホンワカする「吸血鬼」と「タイムトラベル」の話の結末がイイ。

そして、作中に出てきた本が読みたくなる・・・。

リチャード・マシスンの『ある日どこかで』とか・・・。


ある日どこかで (創元推理文庫)/東京創元社

『緑衣の女』


『緑衣の女』 アーナルデュル・インドリダソン/著、柳沢由実子/訳、東京創元社(2013)


アイスランド、レイキャビク周辺を舞台とした警察小説。

シリーズもの。その2作目。ドメスティック・バイオレンスが主題の物語。


新興住宅地で建設中の住宅の地中から60~70年前の人骨が発見される場面から始まる。

数十年もの間封印されていた悲しくて残酷な境遇にあった家族の物語が、捜査官エーレンデュルによって明かされる・・・。

(メインプロットには関係ないが、この人骨発見の場面が実にえげつない・・・。)


捜査の対象となる家族・親子の物語がメイン・プロットとしてあり、それと並行して、主人公警官エーレンデュルが抱える親子関係がサブ・プロットとして存在する。


前作『湿地』 もそうだったが、この作家は事件背景を丹念に描く。事件当時の時代の雰囲気や社会情勢、その頃の人心がどうであったか・・・。

人間の営みはそのようなことに影響される。だから、物語の背景を丁寧に語ることは、登場人物たちの存在や言動に説得力を与えることにつながる。

リアリティを得た登場人物たちによる物語は、フィクションでありながらも現実世界を生きる読者に何かを残す。読後わずか、たとえ一時的であっても、考えさせる・考えるべき事柄を与える。
この作家の作品は、そういった部類の物語だ。

お薦めです。