『監視対象 警部補マルコム・フォックス』 | 本だけ読んで暮らせたら

『監視対象 警部補マルコム・フォックス』

THE COMPLAINTS (2009)
『監視対象: 警部補マルコム・フォックス』  イアン・ランキン/著, 熊谷千寿/訳,新潮文庫(2014)


警官を監視する部署=内部監察室の警部補マルコム・フォックスを主人公としたイアン・ランキンの新シリーズ。 その第1弾。 750ページ近くもある長編。


一人の悪徳警官に関する周到な調査を行い,その証拠を検察に引渡すところまでこぎ着けたフォックス。

部下たちから称賛されたのも束の間,既に次の仕事が待ち受けていた。小児性愛者の疑惑をもたれているブレック巡査部長の身辺調査である。

ブレックの身辺調査を開始して間もなく,フォックスの妹の恋人が他殺体となって発見される。そして,その殺人事件の捜査メンバーにはブレック巡査部長がいる。

殺された男は,フォックスの妹に対する暴力を日常的に行っていた。それを掴んだ殺人捜査班は,妹が暴力を受けていた事実を知っていたフォックスも容疑者の1人とみている・・・。


フォックスのブレックに対する身辺調査活動は,利益相反する事態にならないのか? だが,監察室の上司は,ブレックの身辺調査を続けることに問題はない,という。

何かがおかしい・・・。

やがて,警察組織内にうごめく闇と,エジンバラという街の闇,その双方に包まれることになるフォックス・・・。



人物設定の奥深さ。 過去を引きずる主人公。

警察組織間の敵対・同盟関係。 署内の監察室と殺人事件捜査班。 第三機関の監察室。

警官個人同士の感情の交錯。 誰が味方でだれが敵なのか。

複雑なプロット,錯綜した展開。 

・・・・手強い物語だ。

だが,じっくり腰を落ち着けて読みこめば入り込める。フォックスにシンパシーを感じることができる。


イアン・ランキンが造形した新たな主人公マルコム・フォックス。彼もまた,リーバス警部と同様,現代のスコットランド社会,エジンバラ社会の光と影の境界を垣間見せてくれる。

お薦めです。


このシリーズ,スコットランド本国では既に4作出ているそうだ。

しかも,第3作と第4作は,リーバスとの共演だそうだ。 今後が楽しみ。



イアン・ランキン作: リーバス警部シリーズの作品紹介はコチラ。

『最後の音楽』  『死者の名を読み上げよ』  『影と陰』  『獣と肉』  『紐と十字架』  『血に問えば』