『20世紀の幽霊たち』 | 本だけ読んで暮らせたら

『20世紀の幽霊たち』

20TH CENTURY GHOSTS (2005, 2007)
『20世紀の幽霊たち』  ジョー・ヒル/著、 白石朗、安野玲、玉木享、大森望/訳、 小学館文庫(2008)


作者の素性も、内容の濃さも(?)、今年話題になった短編集。

どの作品も巧くて読ませる。 なかでも、6作目の「うちよりここのほうが」は、とびっきりの上物。


■「年間ホラー傑作選」

この作品群の中では、ちょっと在り来たりすぎる作品。他にも良くありそうな話。この作者である必要はない。


■「二十世紀の幽霊」

20世紀の名作映画がたくさん登場する話。

一応ホラーの範疇に入る作品だと思う。人が死ぬ物語だが、不思議とほのぼのとしている話。


■「ポップ・アート」

主人公と風船人間との友情物語。アホらしい設定だが、ストーリーはいい。

高く高く空に向かうと、いつしか力の作用する方向が逆向きになり、黒い穴から宇宙に落ちる・・・という主旨の文章があったが、その描写によって、脳内に凄く綺麗なイメージが拡がった。美文だ。

ただ、本書の序文を書いているクリストファー・ゴールデンとかいう人物は、この作品を“至高の域に達する大傑作”とか云っていたが、そこまでのものとは思えなかった・・・。


■「蝗(いなご)の歌をきくがよい」

読んだことないけど、カフカの「変身」に近い? 続きが読みたい。


■「アブラハムの息子たち」

ヴァン・ヘルシング家の父親と二人の息子の物語。

“ヴァン・ヘルシング”という名前を聞けば、どういう話かわかる!? 結末は意外!


■「うちよりここのほうが」

メジャー球団の監督である父親と、ホンの少し情緒障害を持つ息子の関係を描いた物語。二人の関係が実にスッキリしていて、羨ましく思える。 最後のセンテンスは凄くキラキラした文章だった。この作品が一番好きかも。


■「黒電話」

ファンタジー&ホラーの秀作。こういうオチは好み。


■「挟殺」

すでに印象に残っていない。


■「マント」

余計な殺生がなけりゃイイ作品だったんだけどナ・・・


■「末期の吐息」

ブラック。この短編集に収められている作品は、どれもが何らかのブラック的要素は持っているのだが、こいつはとりわけブラック。


■「死樹」

この中ではもっとも短いたった2ページ半の話。良いも悪いも、面白いも面白くないもない。


■「寡婦の朝食」

これも印象に残っていない作品。


■「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」

ジョージ・ロメロ監督の出世作、映画「ゾンビ」撮影中の話。ゾンビ役のエキストラの男女二人の物語。我が儘な2人の話だな。


■「おとうさんの仮面」

幻想 or ホラー !? よく判らない作品。

そもそもホラー、特に心理的ホラーって云うのは、理屈通りではない理不尽な恐怖感を抱かせるものなのだろうが・・・・・、この作品は理不尽で意味不明だが、怖くはないので、幻想小説なのかな?


■「自発的入院」

この作品集中では90ページ強と、もっとも長い作品。なので、登場人物が置かれた状況説明や恐怖の対象となるものにページが割かれていて内容的にも判り易い。でも、その分、少々理不尽さが足りなくなっていて、“訳が判らない”という恐怖感を薄れさせてしまっている。


■「救われしもの」

ん~、普通。


■「黒電話[削除部分]」

削除して正解。



こうしてみると、作品の質にバラツキがあるような気もするが、安打率は良い方だと思う。

純粋ホラー話よりも、ホラー・テイストの“日常の当たり前”を描いた作品にいいものが多かったように思えた。