『男たちは北へ』 | 本だけ読んで暮らせたら

『男たちは北へ』


『男たちは北へ』   風間 一輝/著、 ハヤカワ文庫(1989)




主人公の中年男(桐沢)は自転車で。高校を中退したばかりの少年はヒッチハイクで。陸上自衛隊3佐の男(尾形)は組織の都合で。

3人の男たちが北へ向かう。


北への旅立ちの出発点は東京都清瀬市。ちょっと走ればすぐに埼玉県だ。そこから浦和-所沢線(今では国道)に出て、荒川を越える羽根倉橋に向かう。

清瀬市、浦和-所沢線、羽根倉橋、私にとってはどの地名も極めて身近なものだ。それだけに、情景がハッキリと浮かぶ。20年前であろうが、現在であろうが、このあたりの地はホームグラウンドである。


冒頭、羽根倉橋を越えたところ、路上の凹凸で跳ねたトラックの荷台から自衛隊の機密書類が落下する。この機密文書を巡って陸上自衛隊が暗躍するわけだが、そんなことは、この作品では瑣末な枝葉に過ぎない。


この物語のブッ太い幹は、3人の男の少し変てこりんな、だが恐らくは本質を突いた友情の物語なのだ。



桐沢は、羽根倉橋を渡り、JR北浦和駅の高架の下をくぐり、浦和市を抜け、春日部市で国道4号線に入る。あとは、国道4号線を青森に向けてひた走る。直射日光や風雨に晒されながら、東北地方の険しい山道でもペダルをこぎ続ける。桐沢の胸中には感傷めいたものは生じない。ひたすら自転車を駆る。
桐沢の道中には、ヒッチハイクの少年や自衛官:尾形との幾度かの交錯がある。その度に、桐沢が、少年が、尾形が、他愛のないセリフを吐く。

ただ、それだけの話だ。


だが、私の場合、20年前に初めて読んだこの作品が未だに記憶に残り続けている。何故、こうも後に残るのか。

奇妙な事だが、ツボにはまったとしか云いようが無い。

敢えて云うなら、男たちの吐く言葉の中に、何かしらの意味が見い出せるからかもしれない。


久しぶりに読んだが、初読の時とほとんど変わらない感情が湧き上がった。元気が出るんだ。やる気が出るんだ。優しくなれるんだ。



稲見作品と同質の名作。お薦めです!


別冊宝島「このミステリーがすごい!」20周年の特別号が出版された折に、早川書房が便乗して再刷した模様。

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