『川の光』 | 本だけ読んで暮らせたら

『川の光』

『川の光』  松浦 寿輝/著、  中央公論社(2007)


兄のタータ、弟のチッチ、お父さん、3匹のクマネズミの親子。先祖代々暮らしてきた巣穴は、日当たりの良い川辺にある。人間たちの護岸工事によって住処を追われることとなった3匹が、新たな川辺の住処を求めて、上流を目指す。

旅の途中、ネズミ親子は無茶苦茶な暴力に晒されたり、別離を経験する。自然の驚異や人間たちの驚異にも遭う。しかし、ネズミ親子のピンチには不思議と誰かが助けてくれる。兄ネズミも見ず知らずのモノを助ける。父は子供達を想い、兄は弟を想う。年少の者もいつしか年長者が与えてくれる庇護に感謝するようになる。

家族や他人との関わりにおける明暗両面が描かれ、読んでいる方はそれに対して一喜一憂する。


少しずつプロットや表現形式は違うだろうが、主人公達が安住の地を求める過程で様々な困難に遭遇し、それらを乗り越えて成長して行く物語、冒険譚というのは、昔から小説には良くある。

良くあるが、それでもこういう物語を好んで読んでしまうのは、小市民的な(?)精神の健全性を持つ人間にはしょうがないことである。こういう物語を読んでワクワクできる、「ア~、オモシロかった!」と思えるうちは、なんとか私も社会に受け入れてもらえるような気がする。

(現在、この本と同時平行で読んでいる他の1冊がトマス・クックの作品だから、余計にそう思うのかも・・・)



この物語は、クマネズミ親子や彼らに関わる小動物たちの視点で描かれるため、地面に生える草や花、道路端、下水管の中、水面などの表現が実に様々だ。ネズミたちが見上げる空の模様を描くところもイイ。特段難しい言葉が使われているわけでない。子供でも読めるように書かれているから、非常に簡単で日常的な言葉遣いである。にも拘らず、映像を観ているかのように情景が浮かぶ。あらためて一流の小説家の表現力に感嘆してしまう。


お薦めです。


そうそう、表紙の絵も、挿絵も、ネズミたちの行程を描いた地図もすごくイイです。