『人間はどこまで動物か』 | 本だけ読んで暮らせたら

『人間はどこまで動物か』


『人間はどこまで動物か』 (2004)  日高 敏隆/著   新潮文庫(2006)


動物行動学者、日高敏隆さんのエッセイは短くて、読みやすくて、判りやすくて、潔い。

しかも、その内容によっては読後にモノの見方が変わる(かもしれない)。


200ページちょっとに、40編のエッセイ。1編あたり5~6ページ。

身近な自然観察の様子をほのぼのとした筆致で記したもの、最近の世の趨勢や社会情勢を少し皮肉ったもの、気象・環境の変化を題材にして著者自身の自然観を窺わせるもの、などなど。他にもいろいろ。

基本はユーモアとエスプリ。ときおり、科学者としての知恵の披露。そして、何気ない提言。ドキッとする一言。これらが満載。



特に印象に残った箇所を列挙しておこう・・・


■科学とは主観を客観に仕立てあげる手続き。だが、大学は単に「手続き」を教える教習所であってはならない。大学とは根源的な疑問を考え続けていくところ・・・・ (pp.128)

これを読んで、学生時代のある教授の一言を思い出した・・・。

「実学(工学などの実用的で役に立つ学問)ではない虚学(一見しただけでは役に立たない学問)を学び考えることが、何時か身を助けることになるかもしれない・・・」


■いわゆる地球環境問題の根源的原因はなにか? (pp.134-138)

 人間文化(技術、科学、芸術、宗教・・・)の問題・・・。 “未来可能性”。 
 この本には珍しく難しいことが書かれていた。


■人間は何処まで動物か (pp.139-143)

 読む前に予想していた内容とはまったく違っていた。

 遺伝学的、行動学的な観点からの内容のものと予想していたが、観念的な側面から言及していた。

 私にもまた、“発想の呪縛”がある・・・・・。



巻末で「解説」を書かれているドイツ文学者の池内紀氏の優しい“日高センセイ”評もイイ。
大野八生(やよい)さんのカバー絵、挿絵も可愛らしい。


日高さんのもう一つの文庫エッセイ 『春の数えかた』  もどうぞ。

池内さんが「解説」で触れている 『鼻行類』 も・・・。