『天外消失』
年越しで読んだ。
“伝説の名アンソロジー:『37の短編』”という作品の復活なんだそうだ。
なぜ「伝説」なのかは、本書の裏カバーや 復刊ドットコム をご覧いただければ判るだろう。。。
さて、ミステリ小説にも古典的作品というものが存在する。
何をもって“古典”と定義されるのか? イマイチあやふやではある・・・。 人によっても判断基準は異なるだろう・・・。 でも、とりあえず“古典”なるものが存在する。
ミステリ書評業界の方たち≒プロの本読みとその周辺の人たち、というのは、一般読者が太刀打ちできないほど多量かつ多種の作品を読んできているはずで、そういった経験値の高い人達の評価・判断というものには、個人的な好き嫌いは別として、一目置くことになる。
取り敢えず、そうしたミステリ書評をする業界人たちの間で、その作品に対する良好な評価が大まかに成立している場合がある。そういったものを“古典”としておこう。 ← まったく定義付けられていないナ・・・(^_^;)
まァ、とにかく、この作品、その筋の人たちの間では、“古典” とされているようだ。
“古典”というのは、直接的であれ間接的であれ、はたまた、ポジティブであれネガティブであれ、現在の作品に対して何らかの影響を及ぼしているはずである。そのような“古典”があったお蔭で、現在私が好んで読み漁っているミステリ小説が存在しているのだろう。
・・・ということで、それなりの敬意を払って読んでみた。 面白いか面白くないかは度外視。あまり好きな読み方ではないが、ミステリ小説の歴史などの背景知識を得るための読書、ってことになるのかな。
・・・・・読み終わって・・・・・、それが、以外にも楽しめちゃったよ。(^ε^)♪ ラッキィー!
では、掲載ページ順ではなく、読んだ順に書き留めてみる。
■『天外消失』 クレイトン・ロースン著/阿部主計訳
まず最初に読んだのが、表題作の『天外消失』で、これは密室トリックもの。駅構内の電話ボックスに入ったはずの容疑者が、尾行監視していた刑事たちの前から消え失せる。そのトリックを奇術師の主人公が暴いてみせるというもの。
良く出来ているとは思う。小説でなければ成立しにくいトリック。仮に映像化する場合、このようなトリックが成立するだろうか?と考えてはしまうが・・・。
■『死刑前夜』 ブレット・ハリディ著/訳
次に読んだのがコレ。
こういうのを“ミステリ”というのかは疑問だが、内容はイイ。私の好み。アメリカとメキシコの国境を越えてやってきた登場人物の心理状況は明示されないが、彼の行動と会話に見え隠れする暗喩から、何を考えていそうなのかが類推できる。その登場人物の心理状況が、私の想像通りであるなら、この作品はハードボイルドに区分されるかもしれない。
■『最後で最高の密室』 スティーヴン・バー著/深町眞理子訳
掲載順ではラストの作品。
一応いんちき無しの密室モノではあるが、そんなバカな・・・って感じだな。
■『殺し屋』 ジョルジュ・シムノン著/長島良三訳
メグレ警部(警視)シリーズを書いたメジャーな作家さんだから名前だけは知っていたが、作品を読むのは初めて。
この作品・・・、作中の謎はすぐに判ってしまうが、オーソドックスな短編らしいイイ物語だったな。
■『後ろを見るな』 フレドリック・ブラウン著/曽我四郎訳
叙述が実験的な小説。このような書き方で、著者は、おそらく読者に恐怖心を抱かせたかったのだろうな。
だが、物語が中途半端すぎる。
■『ジャングル探偵ターザン』 エドガー・ライス・バロウズ著/斉藤伯好訳
これが、この『天外消失』のオープニング作品。
ターザンもの。そう、あの、ターザンである。よく映画になっている・・・。
ターザンの群の小猿を殺したハグレ雄猿の行方を追い、報復をするという内容。
こういう作品も探偵小説として一括りにしちゃうんだ・・・・・。“探偵小説”って、何でもアリってことを端的に示しているな。
■『エメラルド色の空』 エリック・アンブラー著/小泉喜美子訳
毒殺モノ。薬物・化学物質に関する専門的なことを語られても素人読者には判らんだろうて!
こういう本格モノはイタダケナイ(ずるい)よな。
■『この手で人を殺してから』 アーサー・ウィリアムズ著/都筑道夫訳
今でこそ良くある猟奇的な死体損壊・消失モノ、完全犯罪モノの部類に入るのだろうが、やはりこのテの話は好きじゃない。
■『女か虎か』 フランク・R・ストックトン著/中村能三訳
読者の判断(感性)に任せるよ・・・的なラストの作品。こういうのは実験的なんだろうけど、作家としての義務を放棄してるな。
■『白いカーペットの上のごほうび』 アル・ジェイムズ著/小鷹信光訳
バーで知り合った絶世の美女を誘い、彼女の部屋にまで入り込んだチンピラの受難。女がアホ過ぎて話にならん。こりゃ駄作。
■『懐郷病のビュイック』 ジョン・D・マクドナルド著/井上一夫訳
当たり前だけど、ナルホドと思わせるオチ。何だか新鮮だったナ。これは気に入った。
■『ラヴディ氏の短い休暇』 イーヴリン・ウォー著/永井淳訳
異常な人間を題材とした一種のノワールものかな? こういうのも好きじゃない。
■『探偵作家は天国へ行ける』 C・B・ギルフォード著/宇野利泰訳
殺された探偵小説作家が、天国でミカエル天使長のお情けによって、殺された瞬間の12時間前に生き返らせてもらい、自分を殺した犯人を探し出すという、なんとも馬鹿馬鹿しい話。オチもバカバカしいが、こういうのは、私としては許容できる。
■『火星のダイヤモンド』 ポール・アンダースン著/福島正実訳
未読。
もともとは、『37の短編』だったらしいのだが、本書には上述した14篇しか収められていない。その理由は巻末の「解説」に書かれているのだが、他の作品は、最近出版された他のアンソロジーなどに収録されているそうだ。
37編全作を読む気力など元々無いが、今回読んだ13篇だけでも、“ミステリー”と称する小説は、昔からかなりバリエイション豊富であったことが判った。やっぱり、ミステリーってのは、何でもアリ!ってことなんだね。今も昔も。