『ブルー・ヘブン』 | 本だけ読んで暮らせたら

『ブルー・ヘブン』

BLUE HEAVEN (2007)
『ブルー・ヘヴン』  C.J.ボックス/著、 真崎義博/訳、 ハヤカワ・ミステリ文庫(2008)


他人は気付いていなかったり忘れていたりするが、自分にとっては数十年もの間シコリとして残っている後悔やわだかまりの気持ちというのがある。何かに拘ってきたり、自分が自分に課したモノを頑なに守ろうとしてきた人間が、たったの一度でもそういったものから逸脱してしまった場合に、彼らは自身の心の奥底に暗闇を抱え込んでしまう。


アイダホ州北部の小さな町で起きた12歳と10歳の姉弟の行方不明事件を背景に描かれる、暗闇を抱え込んだ3人の男達の自己回復の物語・・・・・として、読むと面白いかも。


この物語に登場する3人の男達・・・、

息子も妻も去り、そして今や、3代続いてきた牧場の経営資金が底を突き、資金繰りにまで頭を悩ませることとなったジェス・ロウリンズ。

未解決事件を抱えたまま定年を迎え、その事件関係者を洗い直すために、たった一人で見ず知らずの地に乗り込んできた元刑事エデュアルド・ヴィアトロ。

小さな町ではあるが、その町の経済・社会運営の基盤でもある銀行の頭取を務めるまでに出世し、町の名士ともなったジム・ハーン。

この3人がそれぞれに抱えることとなった悔恨の経緯について、プロットの勢いを削ぐことなく、それでもそれなりに字数を費やして描いている。だから、彼ら3人の行動の動機付けが説得力あるものとなっている。こういう描き方は大好きだ。


■複雑な家庭事情のもとで育った姉弟の性格描写。

■姉弟の母親の心理の変化。

■小さな町で起こった大事件に翻弄される無能な(事件に不慣れな)保安官の苦悩。

■町の噂話やゴシップを嗅ぎ、吹聴する郵便配達員の女の嫌らしさ。

■殺人事件とその犯人達を目撃してしまった姉弟が、犯人達から逃亡し、その後も幾つかの罠をくぐり抜けてゆく場面。

■姉弟を取り逃がしてしまった犯人達(元ロサンジェルス市警の警官だった男4人)が、姉弟を見つけ出すために企む狡猾な計画と冷酷な行動。

■クライマックスで、3人の男達が自らの暗闇を吹き払うため、男としての矜持を守るために行動を開始する場面。

などの描き方にも印象深いものがある。


“姉弟を守り、敵と戦う”という大局的なストーリーは良くあるパターンかもしれない。

だが、この大筋の物語に対して、上記に挙げたサブストーリーやサブプロットが無理なく自然に繋がるものだから、良くある物語という感じを抱かずに済む。大筋(本流)の物語に幾つかの支流の物語が合流し、物語の厚みと展開の加速度を増しながら一気にクライマックスに流れ込んで行く場面もカッコいい。

最終ページのラスト6行は意外だったが、こういう終わり方があってもイイかもしれない。


夢中で読めて、さらに、(人によっては)読後のスッキリ感も味わえるサスペンス作品。お薦めです。



【追 記】

この著者の別の作品、『沈黙の森』という文庫が本ケースの奥のほうにある。

以前、私はこの著者の作品を読んだことがあるみたいだ・・・・・。まったく、記憶が無い。

これだけ私好みの物語を描くんだったら、引っ張り出してきて読んでみるかな。