『フロスト気質』 | 本だけ読んで暮らせたら

『フロスト気質』

HARD FROST (1995)
  

『フロスト気質』 上・下    R.D.ウィングフィールド/著、 芹澤 恵/訳、 創元推理文庫(2008)

あいかわらずだ。メチャクチャ面白い。

群を抜いている。

チョットやそっとの小説ではこの作品に太刀打ちできるものはないのでは?・・・と思う。

間違いなく年末のランキングの上位にくる!(はず)


ミステリー小説の歴史の上で、モジュラー型警察小説のカテゴリの中では、(まるっきり作風は異なるが)、87分署シリーズと双璧だ。このウィングフィールドってぇ作家は凄い。凄すぎる!



下品で下世話でだらしのない主人公、ジャック・フロスト警部。

その上司で、事なかれ主義、エエカッコシイの警察署長、マレット警視。

上昇志向が強く、マレット警視には弱く、フロストと部下には強気な、最低最悪な性格のキャシディ警部代行。

この3人をはじめとして、本作に登場するキャラクターの誰もが実在感をもって私の頭の中で動いていた。

それほど、のめり込める小説だった。


複数の事件を抱えさせられ、寝る間もなく働くフロスト。彼のドタバタぶりは、デフォルメされてはいるが、実際に組織(警察に限らず)で働く人間には十分にあり得るシチュエーションだ。数々の障害に遭いながらも、決して仕事を投げ出すことなく(手を抜くべきところは抜くのだが・・・)、ゴール(事件の解決)を目指す。(途中、数々の寄り道をしながらも・・・。その寄り道具合がこの作品のウリの一つでもある。)

私のようなサラリーマンが、そんな主人公に肩入れできないはずが無い!


上司(マレット警視)や同僚(キャシディ警部代行)による幾多の嫌味や鬱陶しい行動に晒されながらも、自虐的な言葉と飄々とした態度でそれらを乗り越え(ときには無視し)、イザとなれば迷い無く名(事件解決者としての名誉)よりも実利(犯人逮捕、人命優先)を採るフロスト。このフロスト警部、間違いなくカッチョエエ男だ。

この作品は、こういう自虐的でオッサンおっさんした主人公であっても、箆棒にカッコいいハードボイルドが成り立つことを証明してくれている。

私のような単純な読者は痺れるのだ。一見冴えないオヤジではあるが、その実・・・・・ってぇところに・・・。



フロストの直観が少年を誘拐した容疑者を特定してからのクライマックスは、一気呵成、ページ・ターンで紙を破いてしまうほど夢中で読んだ。ラスト数ページを残して、電車が駅に到着してしまったものだから、ラストはプラットホームのベンチに座って読むことになった。

今朝は、遅刻しながらも満足して会社に出勤したのであった。
お薦めです。