『地球最後のオイルショック』 | 本だけ読んで暮らせたら

『地球最後のオイルショック』

THE LAST OIL SHOCK (2007)
『地球最後のオイルショック』  デイヴィッド・ストローン/著、 高遠裕子/訳、 新潮選書(2008)


コレ、真面目にお薦めです。 今が旬の本。

SFではない。ノンフィクション。いや、論文・レポートと言った方がいいかも。でも、難しくない。


現在、世界の石油生産量は減少している。

中国やインドやブラジルなどの新興国が躍起になって先進国に追いつこうとして石油を大量消費しているが、供給が受容に追い付かなくなるのはもう直ぐ。

3回目の、そして、地球最後のオイルショックが到来する。

最期のオイルショックは、生産量のコントロールや価格の値上げというような小手先のみみっちィ現象とはまったく違う。

純然たる自然現象。物理的に不可避なこと。


自然現象・・・、いわゆる“枯渇”というのとは違っていて、ピーク・オイルと言うらしい。

ピーク・オイルとは、「世界の原油生産がピーク・アウトし、伸び続ける需要に追いつかなくなる現象」のことだそうだ。これは、埋蔵量の半分が生産された段階で起こる。埋蔵量の減少とともに生産能力が低下する。両者の低下の度合いは比例関係ではない。埋蔵量が少なくなればなるほど、油層の圧力は減少するため、生産性は加速度的に低下してゆくのである。

ピーク・オイルが今後10年ほどで到来するとの予測が複数機関で発表されている。

ピーク・オイル後の世界はいったいどうなるのか?著者が取材して聞き出した情報や、著者自身の考えによると、先行きは明るくない。現状維持すらままならない。

そりゃそうだ。文明の根幹を担ってきた石油が減少するのだから、今まであったものが無くなるのだから、只事ではない。


著者は、石油に代わる新エネルギーや自然エネルギーのこと、バイオエタノールに代表されるバイオエネルギーのこと、気候変動・地球温暖化のこと、石油メジャーやOPECのこと、アメリカ型(グローヴァルスタンダート)経済モデルの凋落、などにも詳しく言及している。


読み進めるうちに、著者の言説にいちいち納得させられている自分がいて、これじゃイカン、疑いを持って読め!、と思いながら、それでも読むほどに惹き込まれてゆく・・・。 待ち受けるのは、重い現実・将来であるのに・・・。


それにしても、数々のデータがピーク・オイルを予測しているにも拘らず、この段階になっても未だ、「石油は増産できる」とか、「今後、数十年間は生産量が減少することは無い」とか、はたまた、「石油が減少する前に、石油に代わる代替エネルギーが現代文明の発展を担う」とか言っている政治家やエコノミストが世界中にワンサカいるという事実に腹が立つ。

都合の悪い事実を隠し、あるいは先送りにし、はたまた無知で、今ある現状を直視しようとせず、対策を遅らせる・・・、著者は、こういう輩をケチョンケチョンにコキ下ろしている。(私個人としても政治家やエコノミストは大嫌いな人種なので) この部分については読んでいて非常に気持ちいい。


しかし、そう気持ち良くもなっていられない。

この本が突きつける問題・現実は極めて重い。


先ず云えそうなことは、先進国ですら、現在と同じレベルの生活水準を維持することは不可能だということだ。

湯水の如く石油を使いまくっているアメリカなどは、文明が精鋭化しているだけに脆弱性も高い。石油生産が減少し、価格が暴騰した時、アメリカは唯一の超大国の座から転げ落ちる、と予測されている。いや、最近の石油製品の価格上昇や、この間の洞爺湖サミットでのアメリカの政治的ポジションなどを伺っていると、その兆候は既に現れ始めているような気もする。

省エネ先進国といわれる日本だって、どっぷりと石油漬けの社会になっていて脆弱だ。早いトコ、脱オイル社会の構築に入るべきだ。(車に乗るのを少なくして自転車に乗ろう!)


この作品の著者は、ロンドン在住のドキュメンタリー製作者らしい。この本の元になった内容がすでに2000年にBBCで放映されているらしい。
職業意識の高いジャーナリストが、このような硬派で先見的な内容を一般人にも判りやすく説明してくれる。こういった点に欧米文化の成熟性が見られる。


繰り返しになるが、この本、お薦め。

多くの人に、ピーク・オイルの事実と将来課題の重さを読んで、知っていただきたいと思う。