『ザ・ロード』
- The Road (2006)
- 『ザ・ロード』 コーマック・マッカーシー/著、 黒原敏行/訳、 早川書房(2008)
最初の7、8ページを読んだだけで、とてつもない寂寥感に襲われた。
凄い舞台設定だ。そして、そんな世界に生きる人間を描く筆力もまた凄い。
舞台設定と言っても、著者がその舞台を明示的に表しているわけではない。読者が想像するのだ。だが、ほとんどの読者は、終末に向かっている世界を念頭に置くことになるはずだ。
モノクロームの世界。空からは灰混じりの雪が降り続く。太陽光が遮られ、一日のうち僅かな時間だけ薄い光が射し、ほんの少し気温が上昇する。だが、ほとんどの時間は暗く寒い。おそらくは核の冬。こんな世界になって数年、あるいは十年程度経過している・・・。
植物は枯れ、動物も死滅している。そんな世界だが、僅かに生き残った人間たちがいる。かつての住宅などに貯蔵・備蓄されていた保存食品を漁り、食い繋いでいる。だが、そんな食べ物も少なくなってきた。強者が弱者を、大人が子供を食う世界。
未来が閉ざされた世界。絶望に支配された世界。
そんな世界を旅する父と息子の物語。
少しでも生き残れる可能性が高い南の地を目指す2人。飢えに苦しみながら旅をする。父は、2人が生き残るため、用心深く、他人の目に付かないように歩を進める。それでも時には、他人の存在を感じることがある。そんなときには隠れ、逃げ、場合によっては銃で威嚇する。生き残るために、現実的に対処しようとする父。
世界が破滅した後に生まれた息子は、生命が溢れ、文明が栄えていた頃の世界を体験していない。父から聞いた話の中でのことしか知らない。終末世界に生きながらなお、息子は、他人を想い、他人のために涙する純真さを持つ。
読んでいる最中、この物語の結末が、父子の行く末が非常に気になった。こんな舞台設定の物語には悲惨な結末しか待ち受けていないのだろう、そう思っていた。
作者マッカーシーは、前作 『血と暴力の国』 と同じように、救いのない物語を淡々と描いているのだろうと思っていた。
違った。
長く苦しい2人の旅を250ページ読んだ後に待ち受ける結末・・・。目が潤んだ。
そうだよな、彼ら父子は、“火を運ぶもの”だもんな・・・。
今年一番の物語に出会った。
お薦めです。