『ハイドゥナン 1&2』 | 本だけ読んで暮らせたら

『ハイドゥナン 1&2』


  
『ハイドゥナン 1』  『 ハイドゥナン 2 』  藤崎 慎吾/著、 ハヤカワ文庫(2008)   初出(2005)

やられた。メチャメチャ好み。もっと早く、単行本刊行時に読んでおけば良かった。


文庫では全4巻構成。そのうちの前半部2巻が5月に刊行された。後半2巻は6月刊行だと。

そんなこと知らなかった私は、2巻構成なのかと思って読んだら、話が途中で終わってしまって、宙ぶらりん状態・・・。

第2巻の巻末には「解説」まで載ってるんだから、2巻構成だと思うだろ、普通・・・



2032年。

破局的な地殻変動の兆候がうかがえる琉球諸島周辺。そこはまた、海底資源が眠り、中国や台湾との国境に近接する地域でもある。

政治家や官僚らは、領土と資源を失うかもしれないという危機に直面し、極秘ながら、異例のスピードで対応策を講じる。そんな中にあって、膨大な調査研究費用の獲得が可能となった科学者達。6人の真っ当でマッドなサイエンティスト達は、地殻変動の正確な予測、そして、万が一の場合の住人救出のために隠れた研究・調査=オペレーション・ヒヌカンを画策する。


一方、共感覚者の伊波岳史(いは たけし)は、伊豆の海中を一人でダイビングしている最中に、見知らぬ女性の声を聞く。幻聴かとも思えたが・・・・。
認知心理学研究室の学生でもある伊波は、准教授の吉田(6人のマッドサイエンティスツの一人)に伴われ与那国島を訪れる。そこで伊波は、巫女の素養を受け継いだ女性・後間柚(こしま ゆう)と出会う・・・。


南西諸島海溝の深海6000mの海底。潜水調査艇<しんかいFD>のパイロット武田とコパイロット瀬戸は、巨大な人工構造物らしきものを発見する。何故こんな深海に・・・・・。


木星の第二衛星エウロパ。表面を厚い氷に覆われるが、内部では熱対流が生じ、液体の海を有すると予測され、生命存在の可能性が期待される地球外の星。メリーランド大学天文学部准教授マーク・ホーマーは、エウロパの生命探査計画に関与している。幼い頃に両親を失い、祖父母に育てられたホーマーだが、数年前に祖母を失い、今またホスピスで寝たきりの祖父を失いつつある。祖父を見舞った折、意識朦朧とした祖父の口から出た言葉は、ホーマーが夢の中で聞く老婆のつぶやきと同じだった・・・。



この小説・・・、いくつもの異なった場所、異なった登場人物達が繰り広げる物語が重層的に展開される。それらのあらゆる場面の、あらゆる人達の話を食い入るように読んでしまう。科学的な分野としても個人的に興味があり、それに増して、ストーリーが抜群に面白い。


プルーム・テクトニクスをはじめとした地球科学,量子コンピューター,共感覚と脳科学,宇宙生命探査,などの科学的情報・知識をふんだんに取り入れつつ、そんな中に挿入される神との対話、テレパシー、などといったオカルトチックな要素。科学的・物理的世界と、現段階では未だ科学的には説明しきれていない精神世界。

おそらく主人公である伊波岳史とヒロインの後間柚、生まれつき他の人間達とは異なる素養を持たされた、この若い2人の苦悩と結びつき。

科学者達や深海探査艇のパイロット達。彼らが持つ使命感と個人的な興味、信条と心情、これらの葛藤。

こうした要素が複雑に絡み合い、多くの謎を含み、人間ドラマとして繰り広げられる。



通勤の往復と寝る前の二日間を掛けて、この2巻を夢中で読みきった。2巻目の160ページ以降、探査・調査区域で地殻変動が始まり、その変動に巻き込まれる調査船や探査船と、そこに乗り組んでいる科学者達やパイロット達の言動を読んでいる時には寝るのを忘れていた。

続き が早く読みたい! 待ちきれない!



この本に興味を持たれた方、この辺 ↓ のもお薦めです。


■ 『地球の内部で何が起こっているのか?』   ノンフィクション。新書で読みやすいです。

■ 『日本列島は沈没するか』   藤崎氏が共著者となっている、フィクションとノンフィクションの境界領域の内容です。

■ 『死都日本』   これもスゴイ科学フィクションです。火山噴火モノ。