『Y氏の終わり』 | 本だけ読んで暮らせたら

『Y氏の終わり』

The End of Mr.Y (2006)
『Y氏の終わり』  スカーレット・トマス/著、 田中一江/訳、 Hayakawa Novels(2007)

19世紀イギリス文学界の異端、トマス・ルーマスという作家によって描かれたとされる 『Y氏の終わり』 という一冊の本。読んだ者は死ぬ、とされる呪われた本。

博士号取得過程の学生である主人公アリエルが、偶然この本を手に入れたところから物語りは動き出し、読者を迷宮へと誘い込む・・・。


主人公アリエルは、現代と仮想空間を行き来し、『Y氏の終わり』を付け狙う謎の男たちの正体、行方不明となった指導教官の行方、そして彼女自身がみているこの世界の心象、などの謎を追う (・・・・謎から逃げる、と言った方がいいかもしれない?) わけだが、この物語の進行の過程で出てくるのが、次のような言葉。


言葉と暗喩。

電子とクォーク。

多次元宇宙、パラレル・ワールド。

ホメオパシー、万能薬。

デリダ、ハイデッガー、ボードリヤール、シュレーディンガー。

・・・・・・・・・

SF?、オカルト?、ミステリ?

物理学?、哲学?、神学?   ジャンル間を渡り歩く不思議な物語だ。。。



“トロポスフィア”という仮想空間のアイデアが秀逸だった。

主人公アリエルと引退した女性学者ルーラ。クライマックスで、この2人の女性の間で交わされた、「思考=物質」という、私にとってはかなり意外だった哲学的かつ科学的な展開。

このような観点でこの物語を構築した著者の独創は“スゴイ!”としか言いようがない。これだけの独創性を発揮しながら、ストーリー、プロットを破綻させていない。

トロポスフィアという舞台の設定(理屈)が非常に良くできているため、クライマックスからラストにかけてが実に面白くなっていった。


ここ何年かで読んだ小説の中では最も異質だった! 最初は取っ付き難かったが、ひとたび物語世界に没頭できてからは、そこからはジェット・コースターだった。
哲学・神学やら思想史にまったく無知な私でも面白く読めた。 お薦めです。