『人類の足跡10万年全史』 | 本だけ読んで暮らせたら

『人類の足跡10万年全史』

OUT OF EDEN : The Peopling of the World (2003)



『人類の足跡10万年全史』  スティーヴン・オッペンハイマー/著、  仲村明子/訳、 草思社(2007)



傑作!!


『生物と無生物のあいだ』 もかなり良かったが、今年私が読んだ自然科学系の本ではこちらがナンバー1!

(今後2ヶ月の間にこの本を上回るポピュラーサイエンス本は恐らく出ないだろう・・・。)

内容の理解を助ける図表も満載。文句無く、お薦め!


母親からしか受け継がない“ミトコンドリアDNA”と、父親からしか受け継がない“Y染色体”を調べることによって明らかになったこと。それは、アフリカを出て世界各地に広がった現生人類(非アフリカ人)の祖先はたった一つの集団に行き着く、ということ。


約8万5千年前、アフリカ東部を出た人類は、紅海の最も狭い部分を抜けてアラビア半島南部に行き着き、そこから海岸伝いにインドに向かう。

約7万5千年前にはインドから東南アジアや中国に進出しており、約6万5千年前にはオーストラリア大陸にも行き着いている。

ヨーロッパには約5万2千年前から4万5千年前に進出し、約4万年前にはユーラシア大陸のほとんどの地に足を踏み入れている。

氷期、海水面が低く、ユーラシア大陸(シベリア)と北アメリカ大陸(アラスカ)をつなぐ現在のベーリング海は陸続きでベリンギア大陸と呼ばれる広大な地が広がっていた約2万5千年前頃から人類はこの地に到達し、その後南北アメリカ大陸に広がる。

 “ミトコンドリア・イブ”を有する母系と、“Y染色体アダム”を有する父系。ミトコンドリアDNAの遺伝子系統樹とY染色体遺伝子の系統樹を組み上げ、それらの分岐が何万年前、何千年前に起こったかを推定する事により、現在のアジア人やヨーロッパ人、ネイティブ・アメリカン、オーストラリア大陸に住みついた人々などがどのように現在地に辿り着いたのかが判る。


現生人類と同種の人類は幾度かアフリカを出たそうである。しかし、ただ一度の時期を除いて、出アフリカを実行した集団は世界に進出する前に絶滅したそうだ。

約8万5千年前、出アフリカを実行し、その後も生き延びることに成功したのはたった一つの集団だった。アフリカ大陸を出たホモ・サピエンスのその一団が、現在、世界中に散らばっている非アフリカ人たちの祖先であるという事実。遡ればヒトはたった一つの同じ種族なのだ。


長いスパン、俯瞰した歴史的事実から見れば、DNAによる相違など無いに等しいのかもしれない。我々の違いを際立たせるものは僅かばかりの“ミーム”による相違なのだ。現在、曲がりなりにも先進国といわれる国に居る我々は、たまたまラッキーな文化的環境の元に生まれついたに過ぎないってことだ。

こういうことを知ると、現在世界で起きている出来事や、周りの人間たちの自分に対する言動(あるいはその逆も)に対して、少しだけ違った目で見ることができるようになるかもしれない?



さて、この本の内容で個人的に興味深かった点をメモしておこう。


●新しい種類の行動は、常にその行動を利用するための身体的な適応に先行する。進化は、先に脳を発達させ、それからそれによってできることを決定していくのではない。生物学的進化が文化的な革新を推し進めるようなことはなく、常にその逆である。(遺伝子と文化の共進化)


●人類(広義の人類)の進化の過程を見ると、脳容積が増大する方向の変化はすでにホモサピエンスが誕生した約17万年前には終わり、その頃からはむしろ減少傾向に転じているそうである。にも拘らず、文化・文明はここ数千年で加速度的に進化してきた。何故か?


●ヨーロッパの地に人類最初の文化が花開いたとする、ヨーロッパ人学者を中心とするこれまでの人類文化の進化史観。本書はこれを真っ向から否定し、証明してみせる。その論理展開たるや鮮やか!


●モンゴロイドはネオテニー?


【そういやぁー、関連するこんな本も ↓ 読んでました。】

『銃・病原菌・鉄』

『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』

『生命40億年全史』