『平成関東大震災』 | 本だけ読んで暮らせたら

『平成関東大震災』

『平成関東大震災--いつか来るとは知っていたが今日来るとは思わなかった』  福井晴敏/著, 講談社(2007)

営業職のサラリーマン中年男が、仕事で訪れた都庁のエレベーターに乗ったところで地震に遭遇する。

東京湾北部を震源とするマグニチュード7.3の首都直下地震。

都庁を脱出した男は、壊滅した都心を横断し、自宅の在る墨田区へと向かう。

本書は、一人の男が震災の街で様々な出来事に遭遇するシミュレーション小説である。


この本、福井晴敏の名で書かれてはいるが、福井らしい描写があまり見受けられない。本当に福井が書いたのだろうか?? 元々この小説は「週刊現代」に連載されていたそうで、地震や被害推定に関連するデータなどは週刊誌のスタッフ達が集め、また、ある程度のシナリオのようなものが週刊誌のスタッフ側から提供され、福井はそれに肉付けしただけなのではないだろうか?根拠はないが、どうにも福井の筆致からは大きく掛け離れているような気がする。

あえて福井らしい部分を探してみれば、ある人物が最後に語るセリフだけかもしれない。

「どんな厄災にあっても、人間はその都度立ち直ってきた。どんなに大地が身震いしても、人の心だけは壊せない。壊すのはいつだって自分自身・・・・・ということは、当然、自分の力で直せるはずです」

・・・っていうところくらい。


まァ~、私の邪推なので本気にはしないでいただきたいが・・・、とにかく、この本は福井晴敏っぽくない!


この小説の中には、国や自治体などが発表した被害想定に関する数値が頻繁に出てくる。この本の中でもたびたび語られているが、国や自治体が公表した自然災害における被害想定の数値を鵜呑みにしてはいけない。

被害推定なんてのは、現在判っていることだけから算出されている。“大体こんな程度だろ”的な推測でしかない。自然現象・天変地異が関わることは、判っていないこと(想定外のこと)の方がはるかに多いことを忘れてはいけない。判っていないことや想定していないことは推定できないから、被害推定値にはそういった想定外の事象によって惹き起こされる数値が抜けていることになる。だいたいが甘い数値になっていると思ったほうがイイ。


極めて普通の災害シミュレーション小説であって、「福井晴敏」の名前に過大な期待をかけてはいけない(と思う)。