『歩く SMALL STEPS』 | 本だけ読んで暮らせたら

『歩く SMALL STEPS』

SMALL STEPS (2006)
『歩く SMALL STEPS』  ルイス・サッカー/著  金原瑞人+西田登/訳   講談社(2007)



『穴 HOLLS』 の続編。 ・・・と言われているが、これだけ読んでもOK。


前作『穴』の主人公スタンリー・イェルナッツと共にグリーン・レイク少年矯正施設でひたすら穴掘りをしていたアームピット(脇の下)がグリーンレイクを出て、2年後の話。



グリーンレイクを出所した主人公アームピット(本名セオドア・ジョンスン)は、カウンセラーの「あなたの人生は、いわば激流の中を上流に向かって歩いていくようなもの。それを乗り切るコツは、小さな一歩を根気強く積み重ねて、ひたすら前に進むこと。もし大股で一気に進もうとしたら、流れに足元をすくわれて下流に押し戻されるわよ。」という言葉を抱き、一歩いっぽ地道に(SMALL STEPで)人生を前へと進んでいこうと決めた。アームピットは高校に通い、得意の穴掘りを生かして造園会社のアルバイトも行い、日々をまじめに過ごしている。


そこに現れたのが、グリーンレイクでの仲間だったX・レイ。アームピットはX・レイから、人気のポップシンガー:カイラ・デレオンのコンサート・チケットを購入し、それを転売して儲けよう(ダフ屋行為)との誘いを受ける。


ダフ屋行為によって巻き込まれる様々な厄介事。それらに機敏に対処しなければならない中で、さらに普通の高校生として試験やアルバイトをこなし、母親とも上手くやっていかなければならない。

そして、ポップシンガー:カイラ・デレオンとの思わぬ出会いと、それによって生じる大厄災。

アームピットの対応がコミカルに、ときにシリアスに描かれる。



相変わらず著者ルイス・サッカーが創り出すストーリーとユーモア満載の筆致は読者を惹き付ける。次の展開が早く知りたくて文字を追う目がページの上を滑ってしまう。


前作『穴』で披露された、全ての出来事がリンクする驚愕のプロットや意外な結末は今作にはない。しかし、主人公と彼の回りに配された人物達との関係を描く様は前作を凌ぐ(と思う)。
特に、アームピットとアームピットの家の隣に住む白人の女の子ジニーとの関係がイイ。

ジニーは脳性麻痺を患っており、時折発作を起こし、1人では行動も思うままにならない。そんな障害者であるジニーとアームピットとの間にはお互いを尊敬・尊重し合いながら、しかもフランクに付き合うことのできる自然な関係が成り立っている。
作中の人物も言っているが、障害者との付き合いに慣れない健常者が陥りがちなギクシャクしたコミュニケーションなどまったく感じさせない二人の関係が素晴らしい。