『トムは真夜中の庭で』 | 本だけ読んで暮らせたら

『トムは真夜中の庭で』

Tom's Midnight Garden (1958)
『トムは真夜中の庭で』  フィリパ・ピアス/著、 高杉一郎/訳   岩波少年文庫(1975)



なんとも意味深なタイトルだと思いませんか?

真夜中の庭で、いったいトムは何をしたんだ!? 気になって気になって、読んでしまった。


いえね、欲しい本があって、家や勤め先の近くの書店では見当たらないものだから、amazonを検索していたら、この本のレビューが目に入って、軒並み評価が高いうえに、この題名に惹かれて・・・、図書館で借りてきた次第・・・。



夏休み。弟のピーターがはしかに罹ったため、叔母の家に預けられることになったトム。

叔母夫婦が暮らすのは、かつては大きな邸宅だったのを、いくつかに区切ってアパートとされた所だった。邸宅の周りには、その後に建てられた小さな家がひしめきあっている。

邸宅の1階のホールには背の高い大時計がチクタク、チクタク時を刻んでいる・・・・・。邸宅のオーナーであり、3階に暮らす老婆のバーソロミューさんが大事にしている時計・・・・・。


せっかくの夏休みを、子供は自分一人しか居ない家で過ごさなくてはならなくなった。幾日もつまらない毎日を過ごすトム。
そんなある日、真夜中にホールの大時計が13回の音を鳴らしたとき・・・、トムが邸宅の裏のドアを開けて外に出てみると、そこは庭園だった・・・・。

日の光の下に見える庭園は芝生に覆われ、あちこちには花壇がいくつもあって花が咲き乱れている。芝生の側面には何本かのイチイの木が立ち、温室があり、小径が庭園の奥へと続いている・・・・・

そして、トムはそこで一人の小さな少女ハティと出会う。

毎夜、異なる時間世界へと出掛けるトム。ハティと庭園で遊び、話をする。つまらないはずのトムの夏休みが一変する。


しかし、トムが訪れる度に、少しづつハティは変わっていく・・・。小さな女の子がいつしかトムと同年齢になり、いつしか大人の女性へと成長していく・・・。

そして、ハティから見たトムの姿は徐々に薄い陽炎のようになっていく・・・。


おおよその結末は予想できる。 現代、数あるタイムトラベル小説としてはオーソドックスな展開とも云えるかもしれない。

しかし、それでも、クライマックスには感動を覚える。


トムとハティが共有した経験と感情は、“時”を越える・・・・・。


子供にだけ読ませておくにはもったいない幻想小説。

多少長く生きてきた人間にこそ味わえる感動というものもある。この児童小説には、それがある。