『脳は空より広いか 「私」という現象を考える』 その3 | 本だけ読んで暮らせたら

『脳は空より広いか 「私」という現象を考える』 その3

Wider than the Sky (2004)


『脳は空より広いか―「私」という現象を考える』
ジェラルド・M・エーデルマン/著、 冬樹純子/訳、 豊嶋良一/監修  草思社(2006)


(その1)(その2) からの続きです。



さて今回は、本書の主要な理論の説明へと分け入ってみよう。

主要な理論といっても、1つや2つではない。

エーデルマン博士が、脳の活動と意識との因果関係を説明するために提唱した理論。


まずは、そのうちの1つ、“神経ダーウィニズム”。 この神経ダーウィニズムについての説明に第4章が費やされる。


「進化は、複雑な環境の中で行使される自然選択・淘汰によって(=生存をかけた競争によって)出現する。=”集団的思考”」

ダーウィンが提唱し、発展させたこの考え方を使えば、脳がどのように進化したのか? そして脳がどのように発生し機能するのか? という点までを説明することが可能だとエーデルマン博士は言う。

ダーウィンの集団的思考理論を脳の仕組みに応用したものを “神経ダーウィニズム” あるいは “神経細胞群選択説(Theory of Neuronal Group Selection) TNGS ” と称し、これが、脳の情報伝達のメカニズムが意識を生み出すことを大局的に説明する理論であるとしている。


では、脳の仕組みを明らかにするのに、なぜ集団的思考理論=神経細胞群選択説(TNGS)が必要なのか?

脳の仕組みを説明するモデルとして、従来、コンピュータ・プログラムになぞらえる考え方があった。しかし博士は、このようなプログラム・マシン・モデルでは脳の途方もない柔軟な機能・多様性を説明することは出来ないと言う。


個々の脳はそれぞれ、異なった環境、異なった遺伝的影響、異なった後成的な発生過程、異なった身体反応、異なった歴史をもつ。それゆえに、個々の脳は、化学的環境、回路の構造、シナプス強度、時間的特性、記憶、価値などによって動機付けされるパターンなどがいろいろなレベルで異なり、膨大な多様性を生む。

エーデルマン博士は、膨大な多様性の組み合わせに対応したメニューをあらかじめ遺伝コードにプログラミングしておくことは無理だ! と考える。 生涯にただ1度だけ、恐らく二度と経験することのない、時々刻々と変化するシチュエーションに、脳の神経回路が対応できるだけの事前の準備などできるはずもない、という考え方には頷ける。


脳の複雑なネットワークは、神経回路の自然選択によって形成される。

たとえ不測の事態が生じても、これまで培った価値を判断基準にして、様々な組み合わせの神経回路群のうちから適応度に応じて淘汰選択されるのである。

生物の進化と同様に、個々の脳においても価値や報酬に適したシナプス集団が生き残るのである。そして、それらが次の行動を生み出す基盤となる。


エーデルマン博士が提唱したこの “神経ダーウィニズム” あるいは “神経細胞群選択説(Theory of Neuronal Group Selection) TNGS ” と称される理論は極めて単純で、かつ合理的であるだけに、私には抵抗感なく受け入れられる。

言われてみれば簡単だが、脳が行う価値選択・シナプス群選択メカニズムに進化論的な概念を取り入れるなんてのは、まさの天才の発想だ。



長くなってきた・・・・・


本書の核心部分は恐らく、第7章「意識と因果作用 -現象変換-」 なのであろうが、ここに至る前に、エーデルマン博士が考えた2つ目の主要な理論=“ダイナミック・コア仮説” を理解しておかなければならない。

この仮説を説明するのが、第6章「脳は空よりも広い -クオリア、統合、複雑系-」 であるが、この第6章に入る前にはもちろん第5章がある。この第5章は、第6章の内容を理解する前の下準備である。


では、第5章「意識のメカニズム」 と 第6章「脳は空よりも広い -クオリア、統合、複雑系-」 の両方でダイナミックコア仮説を学ぼう。

・・・・・ってことで、(その4) に続く。