『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』
スーザン・A・クランシー/著、 林雅代/訳、 ハヤカワ・ノンフィクション文庫
ヒトは自分が見たい物を見、信じたいと思うものを信じる。 いや、見たい物しか見ない、信じたいものしか信じない。
“エイリアン・アブダクション”
宇宙人にさらわれ、人体実験じみたことをされたと信じ、それを他人に語るヒトたちがいる。
いったい、どのような人間が、何故、このようなことを信じるのか?
仮に私が、誰かに「宇宙人にさらわれた」なんてことを言われたら、その相手のことを無視するか、バカにしたような冗談を言い返すだろう。
以下は、この本を読む前の“エイリアン・アブダクション”に対する私の考えである。
・宇宙人が存在し、地球に来たという物的証拠があるんかい!
・ある星に知的生命体が存在する確率というのはかなり小さいものだろう。
地球45億年の歴史の中で、ホモ・サピエンスに至る種が誕生したのが700万年前として、
7000000/4500000000の確率。
自分たち以外の知的生命体を想像するようになったのは大きめに見積もってもせいぜい5000年とか
1万年程度だろう。
・・・ってことは、確率はさらに小さくなり、10000/4500000000=1/450000程度だろう。
・宇宙誕生以来137億年程度といわれる時間の中で、地球とタマタマ同じ時期に他の星に知的生命体
が誕生している確率はかなり小さいのではなかろうか?
・そんなわけで、奇跡みたいな確率で地球に誕生した人類が、他の知的生命体と出会う確率という
ものはメチャメチャ低いだろう。
・仮に地球人以上の高度の文明を持ったエイリアンがいたとして、地球人にチャチャを入れるメリット
などが彼らにあるとは思えない。高等な存在が、下等な存在にいつまでも構っているとは思えない。
・なんだって、アメリカばかりにこんな話が多いんだ。
それを考えたら、いかがわしいものだという意識が働くだろう!
↑↑ こんな感じで、ほんのチョット帰納的(?)に考えれば宇宙人にさらわれる筈がないだろう! と、一蹴してしまうナ。
だが、心理学者である著者は、アブダクティー(エイリアンに誘拐された経験を有すると語る人達)やビリーバー(自らが経験したわけではないが、エイリアンやUFOが地球にやってきて、人体実験などを行っていると盲目的に信じている人達)の言い分を真摯に聞き、彼らになにが起こったのかを、認知心理学や社会心理学などのツールを用いて推論する。
著者のような懐疑論者(私もこの懐疑論者に入る?)、あるいは一般の人たちと比べても、アブダクティーやビリーバーは科学的な思考を極端に避けている訳ではない。
ただ、信じるもの、信じていることに都合のいい証拠を探したり解釈したりする。都合の悪いことは黙殺する。“確証バイアス”と呼ばれる思考傾向が強いことはあるようだ。
●なぜ、エイリアンに誘拐されたと信じるようになるのか?
●物理的なアブダクションがないのなら、何故記憶があるのか?
この2つの疑問に対する推論は、私にもある程度予想できた。
記憶のゆがみ、偽りの記憶、信じ込み、現実性認識のエラー、テレビ・映画・本・記事・過去の経験・想像上の恐怖などの記憶のかけらの再構築、睡眠麻痺・入眠時幻覚。
これらの脳内で生起する現象と、現実世界で起こったことを区別することは難しい。
では、
●どのようなヒトがアブダクティーやビリーバーとなるのか?
●アブダクションを信じると何か好いことがあるのか? ・・・・・・ある。それはなにか?
この2つに対する著者の推論は、なるほど、と思わせる。
特に、アブダクションを信じるメリット・・・これがあるから彼らはアブダクションを経験したと信じるのだ。
その理由が知りたい方は読んでみてください。
エイリアン・アブダクションに限らず、疑似科学や都市伝説、占いなどの信奉者はいつの時代でも何処の社会でも存在する。流行のようなものがあったりして、逆にすぐに廃れるものもある。
このようなことが何故起こるのか? 著者は、そういったことの尤もらしい理由も述べている。 私には頷ける推論だった。