『続 直観でわかる数学』 | 本だけ読んで暮らせたら

『続 直観でわかる数学』

続 直観でわかる数学

畑村 洋太郎/著


またまた出版されました、“直観シリーズ” (← 勝手に私が呼んでいます。)

「直感」ではなく、「直観」というところがミソです。


足し算や引き算や掛け算を一の位からではなく頭からやっていく方法の説明などは、別段面白くもないのですが、“蛇足”と称して、所々に差し込まれているコラムみたいな文章に書かれている、著者の日常の物事に対する感じ方に非常に共感できます。


この著者も言うように、私のような技術者の仕事では大抵の場合、大雑把な計算で事足ります。重要なのは有効数字であって、誤差みたいな末節の数値には興味がありません。もちろん、細かい数値まで必要な場合もあるけど、そういう時もまずは大雑把な量や大きさを把握することが優先されます。この“大雑把な量や大きさ”というのは一種の仮説を立てることに相当します。細かな数値を算出するという行為は、立てた仮説を精査していくことと同じようなことだと思います。適切な仮説を立てることが重要なんです!


一般的に、設計や研究などを生業としている者は、“細かい計算”が得意なように思われているかもしれません?が、これは世間が抱く大きな間違いです。

技術者なる輩の大部分は、如何に楽して目的に達しようかと考える人種だと思います。だから細かい計算などは決して自分ではやらず、機械(コンピュータ)にやらせます。大体が人間の行う計算精度を信用していません。

計算結果が合っているか否かを判断するのは、経験に基づく直観に頼ることがほとんどだと思います。技術者の仕事の大部分は、細かな計算をすることではなく、概略的な可否判断を行うことなのです。


さて、話は脇に逸れます。

私には、今、巷を騒がせているマンションやホテルの“耐震偽造問題”で、○○建築士や△△設計事務所やヒュー○ーとかいう建設会社などが関与したとされる構造計算書の不備を検査機関が見抜けなかったというのが、俄かには信じられません。

熟練した構造エンジニアや建築士・技術士は、自分の経験や過去に幾つも見てきた他の構造計算書や設計図書・図面に関する大まかな内容は頭の中にインプットされているはずです。もちろん、細かな数字を思い出せるわけもなく、またそんな必要もありません。

しかし・・・・・、「このような規模の建物に、この程度の地震外力を想定した場合、常識的なコンクリート厚さや鉄筋量は大体この程度になる」というような概算値くらいは頭に入っているはずです。今回の事件のように、構造部材厚や鉄筋量をかなり少なくしていた場合、「なにかオカシイ」と直観が働くはずなのです。


普通の仕事を真面目に行ってきた技術者や鉄筋工の職人なら、自分の専門分野において、ある条件下におかれた構造物の仕様や構造などについての概算は即座にアウトプットできるはずです。この能力が技術者や技能者としての“直観”力です。この直観力がなければ技術者とはいえないのです。


おそらく、件の検査機関には、この直観力を備えた技術者がいなかったのです! というか、技術者自体がいなかったのです。・・・ってことは、そもそも、その会社は検査機関として認められる存在であってはいけなかった、ということになります。

この際だからはっきり言いますが、デベロッパー、設計者、検査者、施工者、そのいずれもが不備・偽造を見逃すなどということが私には考えられません。全員がグルになっていたか、誰かが圧力を掛けてそれに屈していたとしか思えません。 マッタク!!!(怒)


話をもどします。

“直観シリーズ”は、算数や数学におけるモノの考え方を通じて、“直観力(私なりの解釈では、物事の本質を見極める力)を養うためには、こんなやり方もあるぜ!”ということを広く知らしめる本なのでしょう!?


“理科系の人間は細かい・・・”と思っている人に読んでもらいたいナ。