「Sue スー 史上最大のティラノサウルス発掘」 | 本だけ読んで暮らせたら

「Sue スー 史上最大のティラノサウルス発掘」

タイトル: SUE スー 史上最大のティラノサウルス発掘

Sue スー 史上最大のティラノサウルス発掘」 ピーター・ラーソン&クリスティン・ドナン/著、 池田 比佐子/訳、冨田幸光/監訳


1990年に発見された史上最大のティラノサウルスの化石が巻き起こした様々な物語をギュッと凝縮して描いた本です。


まさに映画に出てくるようなアメリカ中西部の荒野(最初のページにカラー写真が載っています)、そこで行われた発掘の模様を科学的・技術的な観点から描いたくだり、恐竜学の最前線を描いたくだり、化石の所有をめぐる裁判・法廷闘争劇のくだり、その闘争に関わる古生物会や学者達の異なる立場を描いたくだり、裁判の過程を通して著者が感じたアメリカという国のいい加減さを語ったくだり、と盛りだくさんの内容です。


本書の著者ピーター・ラーソンは、化石や古生物を研究する施設、というか民間会社、ブラックヒルズ地質学研究所を率いて、ティラノサウルスを始めとする恐竜化石の発掘を手がける恐竜ハンターの第一人者です。

そして、恐竜発掘仲間で友人でもあるスーザン・ヘンドリクソンが発見した(だから、スーという名前が付いた)ティラノサウルス化石、その発掘の指揮を執った人物です。

本人が自らのことを書いているので、話半分程度としても、恐竜化石の発掘や研究に対する情熱はヒシヒシと伝わってきます。決して、金儲け第一主義で化石の発掘を商売としているわけではないようです。


400ページを超える全記述のうちの半分程度は、裁判・訴訟の話やそれに関わる人間ドラマです。

それだけに、恐竜化石発掘の模様や雰囲気を味わったり、化石に対する科学的な解釈を知りたかったりする人にとっては物足りない内容と感じるかもしれません。

私も、裁判に関する最初の記述部分を読んでいるときは、余計な内容だナ、とも思いました。


しかし・・・


やっとの想いでスーを発掘し、クリーニングしている最中、発掘現場の地主から突然訴えられたスーの所有に関する不当性。FBIの強制捜査。検事のメチャクチャな訴訟理由。偏った判事の判定。救いは陪審員達の常識。

そして、裁判でピーターに下された判決。イヤー、ほんと、アメリカって国は・・・といいたくなります。

ついつい、ピーターに肩入れして読んでしまい、知らず知らずのうちに、この法廷闘争ドラマにのめり込んでしまいました。


さて、科学的・技術的な内容の方ですが・・・

スーの発見・発掘を契機に、その後の他のティラノサウルス化石の発掘・分析なども加えて、ティラノサウルス(→獣脚類恐竜→恐竜全般)に関する研究レベルが一気に高まったことが良く判ります。

化石の研究に加えて、現生のワニや鳥類の観察などから類推されるティラノサウルスの雌雄の判断や、栄巣や子育てに関するピーターの解釈なども興味深いものがあります。

この本全体にいえることですが、内容の理解を助けてくれる写真や図解が多く、しかもそれらが、今まで他の書籍等ではほとんど見たこともないようなモノばかりです。

特に、アメリカで発見された様々なティラノサウルス骨格標本を描いた図解が秀逸です。

この図解を描いたドロシー・シグラー・ノートンという人の画集、出版されていないかナー。